1.企業における高度外国人材活用の現状について
我が国の人口は2004年をピークに減少傾向の局面に入り、将来の持続的な成長を確保するためには、一人当たりの生産性の向上などの新たなイノベーションが求められています。一方、アジア等諸外国に目を向けると高い経済成長とともに、豊富な若年人口と各国の大学に在籍する優秀な学生が数多く在籍しており、こうした人材の獲得は今後の企業の成長、とりわけアジア等に進出しようとしている企業にとって重要な経営資源となる可能性として注目をされており、国籍を問わず「より優秀な人材を得たい」という潜在的な需要の高まりがあると見られています。先進的に高度外国人材を活用している一部の日本企業では多くのメリットを享受していますが、多くの日本企業は、高度外国人材の活用の必要性を認識しつつも、採用に二の足を踏んでおり、日本企業の人材のグローバル化が進んでいないのが現状です。
2.日本企業におけるグローバル採用と目的
近年、グローバル採用という言葉に注目が集まるようになりました。この言葉の定義は狭義には「日本の大学を卒業した外国人留学生」「海外大学を卒業した日本人留学生」「海外大学を卒業した外国人」のうち、いずれかの採用です。広義にはこの3点をすべて含むこともあります。いずれにしましても、自社の事業戦略に応じた最適なグローバル採用を企画・実施することが大切です。
本稿では日本企業による高度外国人材を対象としていますが、その採用理由の分類は主に以下3種類に大別できると考えられます。
1. 国籍不問の採用
2. ブリッジ要員としての採用
3. 社内に多様性をもたらすダイバーシティ要員としての採用
1. 国籍不問採用とは文字通り「国籍に関係なく優秀な人材を求める」という採用で高度外国人材の受入推進が政府、経済界から問題意識として提起される前から存在しているものです。 2. ブリッジ要員は海外とのインターフェース(=架け橋)となる要員のことであり、高度外国人材の言語や出身地といった「母国との関係性」に期待をするものです。特に2001年に中国がWTOに加盟し、中国市場攻略という経営課題がクローズアップされてきて、必要性が顕在化してきたものです。最近では中国に限らず、対ベトナム要員、対インド要員など日本企業の新興国への進出に合わせたニーズも出てきています。 3. の社内に多様性をもたらすダイバーシティ要員としての採用については比較的最近になって期待されるようになった考えです。これは2005年からはじまった日本における人口減少も背景にあると考えられます。企業によっては社内人口構成も年長者が多く若手が少ない「少子高齢・逆ピラミッド構造」となっていることがあり、女性の活用などとあわせ、あえて異分子・異文化背景をもつ人材を意識的に社内に取り込むことにより組織活性化を促したいという目的です。
3.高度外国人材採用・活用に向けての障壁
高度外国人材など外国人社員を受入・活用する企業の不安・課題についてよく言われるコメントとしては「在留資格の種類と手続きが分かりづらい」「日本語能力が不安」「高度外国人材向けの特別な社内教育の必要性」「定着するのか」「社会保険への加入は日本人と同じか」など幅広く多岐にわたり、全体像が見えづらい傾向にあります。そのため、どれか一つの課題を見て「やはり高度外国人材採用は難しい。だから採用は控えておこう」などという判断をしてしまっているようです。一方でこれら不安・課題は全体像として捉える事ができ、全体像の中から課題の種類ごとに整理をすることにより適切に把握することができます。
高度外国人材の受入・活用は今ある人事制度で対応可能
以下では日本企業において高度外国人材の活用を阻むポイントを「3つの壁」に分け、みていきます。ここでは日本企業と海外企業(非日本企業)の違いを一般化し、「ライフライン(一般適応)」「コミュニケーション(対人適応)」「キャリア(職務適応)」という3つの観点から見ていきます。
第1の壁「ライフライン」(一般適応)
「ライフライン」とは、住居・雇用契約・処遇・社会保障・納税など仕事をする上でまずは前提となる事項です。これには採用計画・採用ブランド形成・母集団へのアプローチ・選考プロセスなどの採用戦略も含まれます。外国人社員が日本で働く場合は日本人と同様、社会保険の支払義務があるが日本では年金や健康保険、納税などは企業経由で対応しているのに対し外国人社員の母国では個人が直接、行政手続きに対応していることがあります。この場合、この手続きを代行していることになる日本企業は自社の外国人社員に対して行政に代わって詳細な説明をすることが求められることになります。年末調整や年金脱退一時金の説明も同様です。また、給与など処遇についても日本企業での慣行では新卒で入社後、学歴や在職年数によって一律に近いことが多く、実質「就社」である日本企業と、職務定義により個別性が高い文字通り「就職」である海外企業という違いもあります。
第2の壁「コミュニケーション」(対人適応)
「コミュニケーション」は、職場における意思疎通についてです。国内・海外進先問わず「日本企業では日本語が社内公用語」というのが一般的ですが、メールをはじめとし社内文章などの読み・書きは非漢字圏出身者にとって特に難易度が高いです。また、日本語コミュニケーション以外に非言語コミュニケーションやビジネスコミュニケーションという壁も存在します。非言語コミュニケーションには動作に関するもの(表情、身振り、姿勢など、顔や体の動きによるメッセージの伝達)、時間に関するもの(仕事上のアポイントメントや待ち合わせ時間への対応など)、表現に関するもの(TPOをわきまえた服装や髪型など外見面。色彩感覚なども含まれる)など多数存在しますが「職場での活用」という点で注意・把握しておく必要があります。
第3の壁「キャリア」(職務適応)
ここでいう「キャリア」とは、仕事に対する時間軸の認識ギャップです。「中・長期の雇用を前提としたパフォーマンス発揮」が求められることが多い日本企業とでは5年、10年かけて学び、それ以後時間をかけ貢献するというモデルが機能しますが1年単位の雇用契約など「期間の限られた中でのパフォーマンス発揮」が求められる海外企業は成果を生み出すための時間軸は当然異なります。長期間の勤続が前提であれば仕事のインプット・アウトプットも「経験則・OJT」をベースとしたいわば暗黙知型で十分対応可能であるが短期であれば「マニュアル主義・Off JT(座学の研修などによる習得)」という形式知型が最適な形ということになります。
(一般適応)
処遇は一律の傾向。
社会保障等は会社経由で手続きを行うことが多い。
処遇は個別性が高い傾向。
社会保障等は個人が直接行政上の手続きを行うことが多い。
(対人適応)
(職務適応)
上記3分類について述べましたが、高度外国人材のよりよい活用にあたって、日本企業は海外企業において典型化されイメージに習った活用をすればよいということではなく、むしろ日本企業に既に内在している特徴を「自社のモデル」として高度外国人材に形式知化し提示し、その理解を促すという説明責任と合意獲得が重要となってくるということです。
上記3つの壁を乗り越えるためのチェックシートが以下表です。
(基礎適応)
(対人適応)
(職務適応)
(作成 株式会社ジェイエーエス)
外国人社員職場適応への4ステップ
上記分類とともに、外国人社員の職場適応には「時間軸」もポイントとなってきます。職場に受入後、適応には「ハネムーン期」「カルチャーショック期」「適応期」「成熟期」の4段階に分かれます。

1. 新しい環境を新鮮に感じる「ハネムーン期」
入社・配属後2カ月目くらいまでをハネムーン期といい新しい環境で見るもの・聞くこと・出会う人すべてが素晴らしい、この会社に入ってよかったと思える時期です。
この時期には「区分」の中でも特に「ライフライン(一般適応)」について会社としてしっかりとしておくべきです。後々の誤解等を招くのを防ぐため雇用契約形態や処遇について文章と口頭できちんと理解を促す必要があります。
(参考までに、在留資格に関しては入社前の内定段階でしっかりと確認をしておく必要があります)
2. 違いばかり目に付いてしまう「カルチャーショック期」
2カ月後~半年後くらいに「カルチャーショック期」が訪れます。この期間は「ハネムーン期」とは正反対の精神状態となり、今度はすべてが母国と違う、こんなはずではなかった、母国での就職や他の企業の方がよいのでは、など思いがちになる時期です。これは誰であっても程度の差はあれ一様に訪れるものですが、このショックを和らげるためには「コミュニケーション(対人適応)」、特に職場における上司・同僚とのコミュニケーションを意識的に行う必要があります。また、社内に部活やサークルなど、インフォーマルコミュニティーがある場合には積極的に参加を勧め、配属部署以外の社内人間関係の醸成等を促すことも対応策になりえます。
3. 理解が進む「適応期」
無事に「カルチャーショック期」を乗り越えると、入社半年後から2年目くらいまでは「適応期」となり、その職場で仕事を進めていくためにはどのような振る舞い・行動が必要かについて理解が進む時期となります。この時期には「ライフライン(一般適応)」「コミュニケーション(対人適応)」「キャリア(職務適応)」「リスクマネージメント(危機管理)」をバランスよくケアをして随時対応をする必要があります。
4. 内面においても安定してくる「成熟期」
2年目以降は、仕事や人間関係など内面において安定してくる「成熟期」となります。
留学生の中には日本人の新入社員と比べるとキャリア意識が高い人物が比較的多くみられる傾向にあり、本人が認識しているキャリア形成の時間軸も日本人一般のそれより短期になりがちです。「成熟期」に入る前後から、「キャリア(職務適応)」について重点的に対応をし、中長期的な会社と本人のキャリアイメージを共有しておく必要があります。
特別に厚いケアをするということでも、日本人とまったく一緒でケアを放棄するということでもなく「外国人社員 活用チェックシート」という視点と「職場適応への4ステップ」という時間軸をもとに、ポイントとタイミングを踏まえた対応をすることにより高度外国人材の活用を阻む「3つの壁」を乗り越えることは十分可能であり、実際に多くの企業が対応しています。今回、先進的に高度外国人の採用・活用を実施している企業に取材を行い、各社における、採用・活用の工夫点や成功事例についてとりまとめました。今後高度外国人材の採用・活用を検討している企業の皆様においては、以下の事例が今後の採用・活用において一助となれば幸いです。
